内田ミシン(uchidamishin) 第1回 「文化屋雑貨店」に飛び込んで

ステキなものづくりをしている作家さんを紹介する「ピックアップクリエイター」。今回は、「文化屋雑貨店」で20年間勤め、1年半前に「内田ミシン」をスタートさせたデザイナー、内田美貴子さんを紹介します。まずは、幼少の頃の話から聞いてみると…。
- SOUQ
- 布を切るとき、楽しそうですね?
- 内田
- 私ハサミを使うのが大好きなんで。切る仕事ができてたらなんでもいいんです。
- SOUQ
- 確かに、切る快感っていうのはありますよね。
- 内田
- 小学校のときぐらいに、初めて自分のお道具箱を買ってもらって、全部に名前を書いて。私だけのハサミとか私だけの定規を持つことができたんですけど、最初の授業で紙を切ったときに、私これで生きていこうと思ったぐらい。
- SOUQ
- 運命的な出会いですね。
- 内田
- はい。単純なんで、そのときは美容師になろうと思っていたんです。ハサミの仕事イコール美容師みたいな。そして、小学校のときに最初に入ったクラブが手芸部。
- SOUQ
- ハサミを使いたくて、入ったんですね。
- 内田
- そうです。今でも布を切りながらニヤニヤして、すっごいうれしい。これって天職!みたいに思ってますよ(笑)。だからむちゃくちゃハサミは大事にしているし、いろんな種類をいっぱい持ってます。

- SOUQ
- 美容師を目指した少女・美貴子は、その後、夢をかなえる道を着々と歩んでいったんですかね?
- 内田
- それが、中学からは陸上一筋になりまして。
- SOUQ
- あら、それはまたガラッと方向転換。
- 内田
- 高校時代も、就実高校というなかなかの名門校でキャプテンもやりまして。だけど、腰を痛めてやめてしまいました。それで、おとうさんに大学受験のために浪人したいと言ったんですけど、「女だからダメだ」と言われて。
- SOUQ
- まあそういう考え方もありますかね。
- 内田
- で、とりあえず家を出ようということで、大阪の短大に行ったんですけど、その頃、長谷川義太郎さんの『就職しないで生きるにはシリーズ がらくた雑貨店は夢宇宙』を読んで、「文化屋雑貨店」に就職してしまいました(笑)。
- SOUQ
- 就職して生きる道を選んでしまった(笑)。しかし、思い切りましたね。本に出会っただけで、人生変えるような決断なんて、なかなかできないですよ。

- 内田
- そうかもしれませんね。それで「文化屋雑貨店」に電話をかけたんですけど、やはりすごい人気店で、「募集してないし、入る余地ないよ」と言われて。で、私も「実は短大生なんで、すぐには行けないんですけど」って言ったら、「じゃあ、なんで電話してきたんですか」って。ちょっとおもしろがられて、一度来てみたらって言われたんですよ。
- SOUQ
- なにが幸いするかわからないですね。
- 内田
- それで行ってみたら、早速転写機の仕事を与えられて。そのとき真夏だったんですが、転写機が180℃ぐらいの熱を出すんで、全身汗びっしょりで働いたんですよ。
- SOUQ
- それは暑そう。
- 内田
- ここの人って、こんなに汗かいて、こんなに働くんだ! しかも楽しそうにと思ってたら、仕事終わったときに「転写機、1日やった人って初めてだよ」ってあきれられて(笑)。でも仕事っぷりを見て、こいつ使えると思われたみたいで「うちで働かない?」って(笑)。

- SOUQ
- 体育会系が功を奏した?
- 内田
- はい。それで急いで身支度整えて、家も決めずに上京しました。
- SOUQ
- そこも思い切りいいですね。
- 内田
- スタッフの方の家に泊めてもらいながら、転々としていましたが、もう楽しくて。それから20年経って、着ている服とか好きな音楽とかは変わりましたけど、そのときのビビッとくるものって、変わらない。
- SOUQ
- 千載一遇の出会いだったかもしれませんね。
- 内田
- それまでは陸上しかやってないので、いろいろなものを見ているわけでもないし、知識があるわけでもない。でも、とにかく楽しかったです。タロウ(長谷川義太郎)さんが言うことが、今まで会ってきた大人の言うことと真逆だったんですよ。

- SOUQ
- 「金になる仕事はつまんない」とかね。
- 内田
- ミーティングもシフトも会議もなんにもないんですよ。普通だと、来年の春に向けてなにつくる?とかきっとありそうじゃないですか。文化屋って、なんか寒くなったよね。帽子買ってくる? 手が冷たくなったね。手袋つくる? ってそういう感じです。よくやっていけるなっていつも思ってましたよ。不思議なところでした。でもいろんなことを学ばせてもらってすごくよかったです。働いているというよりは学校にいる感じで、おもしろかったですね。
- SOUQ
- 「文化屋雑貨店」さんでは、どういう仕事をされてたんですか?
- 内田
- 文化屋は担当というものがなくて、私もなにもできない状態で入社しているんですけど、みんなに教えてもらって。これできないとダメというのはなくて、どちらかというと自分ができる、好きなことを伸ばすみたいな社風で。
- SOUQ
- いい会社ですね。

- 内田
- だからミシンも興味あったんで、教えてもらってできるようになって。工業用しかなかったんで、最初座ってひと踏みしたら、すごく早くて力があるので、爪とかも全然縫えるんですよね。だからすごく怖い(笑)。
- SOUQ
- それから20年間勤めあげて、2015年に惜しまれながら閉店して。それからすぐ「内田ミシン」を始めようと思ったんですか?
- 内田
- いや、「文化屋雑貨店」を閉めたとき、「内田ミシン」をやろうという考えは全くなくて。
- SOUQ
- そうなんですね。そのときはどういう心境だったんですかね?
- 内田
- とりあえず目の前のことを片付けないと、と思ったんですね。店やめたときに、すぐ岡山の実家から「やっと帰ってこれるね」なんて言われて(笑)。家族は、応援はしてくれたけど、娘の帰りをずっと待ってくれていたんですね。でも行き先をここで決めるのは違うかなと思って。帰るにしろ、どこかに行くにしても、ちょっと時間が欲しいと思って。

- SOUQ
- 突然の閉店でもありましたしね。
- 内田
- 今まで20年間、週一の休みで勤め上げて、東京の街も知らないし、やってみたいこともいっぱいあるし。とりあえず1年間遊んでいいか?って周りに宣言したんですよ、そしたら「いいんじゃない」って言われて。毎日、目覚ましをかけずに好きなときに起きて、好きな方向に歩いていき、会いたい人に会いに行くという生活を始めました。
- SOUQ
- いいと思います。
- 内田
- たぶん真っ先に海外へ行くと思っていたのですが、計画を立てようとすると、本当に行きたいか?と思い始めて…。遠方に住むおばあちゃんに会いにいってみようとか。知り合い巡りを始めましたね。そうしてるうちに、「ヒマだったら、手伝ってくれない?」と言い出す人がいて。出版社の人とかスタイリストとか。本の装丁をしている人のところで1カ月ぐらいパソコン作業をしてたりとか。

- SOUQ
- いろいろおできになるんですね。
- 内田
- いや、なにもできないんですけど、元体育会だけあって、やる気と根性だけはあるんですよ。あとずっと同じことを続けることが大好きなんで、他の人にはつまらないかもしれない作業をやり続けるのも大好きで。だから全然やろうと思えばなんだってできる。こっちは本気でそれをやろうとしているわけじゃないんで。言い方悪いけど、楽しんでいるだけだし。
- SOUQ
- 気楽ではありますね。
- 内田
- そういうことをしていて、自分しかできないことをもうちょっとやってみたほうがいいのかなと思い始めた頃に、「ミシンが縫えるんだったら、うちにあるこの生地でちょっと帽子つくってくれない?」という話が舞い込んできて。気づいたら、ミシンばっかりやっていたという。文化屋のときも、ミシン専門ではなかったんですけど、ミシンだったらすぐできるので。気づいたら「内田ミシン」を始めていました。
取材・文/蔵均 写真/東泰秀
「文化屋雑貨店」を経過して、「内田ミシン」をスタートさせた内田美貴子さん。次回・第2回は、いま人気のドロワーズをはじめとするアイテムについて話をうかがいます。