上出長右衛門窯(かみでちょうえもんがま) 第3回 “アーティデザイナー”とのコラボレーション

70年以上続くモチーフ「笛吹」も大切にしながら、どんどん新しい試みをする九谷焼の「上出長右衛門窯」六代目の上出惠悟さん。今回は、運命的な出会いでコラボレーションすることになったスペイン人について話を聞きました。
- SOUQ
- 「上出長右衛門窯」では、スペインのデザイナー、ハイメ・アジョンとコラボレーションした作品もありますが、それはどういうきっかけだったんでしょう?
- 上出
- ハイメとは、2008年に僕が長右衛門窯の展覧会をしたときに出会って。当時「リアドロ」という陶人形メーカーのアートディレクターをしていた彼が、隣で展示をしてたんです。
- SOUQ
- なんという偶然! 運命的な出会いですね。
- 上出
- そのとき初めて彼のことを知って、「こんなデザイナーが世の中にいたんだ」とすごく感激したんですよ。

- SOUQ
- どんなところに感銘を受けたんでしょうか。
- 上出
- おもしろいなと思ったのは、彼がたくさんの絵を描く人だったということです。それもとても素敵な絵を。そしてその絵からそのままプロダクトが生まれてくる感じなんですよ。それがとてもよくって。
- SOUQ
- 手描きのものだったんですね。
九谷焼は絵がある焼き物
- 上出
- 昔は、日本画家が企業やお店のパッケージを手がけたり、専門性が今ほどなかったので違うジャンルの仕事をしたりって普通だったと思うんですけど、ハイメは絵を描く延長で家具をデザインしたり、ジャンルを自然な感じで飛び越しているように思えたんです。九谷焼の特徴っていろいろあるんですけど、一つ共通するのは、“絵がある焼き物”だということじゃないですか。
- SOUQ
- ほとんどのうつわに絵が描かれていますよね。

- 上出
- 九谷焼の絵付師は画工とも言って、本質的には画家なんですね。昔から九谷は絵を離れずって言うんですが、近年の取り組みとして九谷焼とデザイナーがうまくいったプロジェクトって実は少なくて、いまって絵が描けなくてもコンピュータがあればデザイン自体はできると思うんですけど、手を使わないと絵は生まれない。
- SOUQ
- パソコンでのデザインは、ある程度パターン化するんですかね?
- 上出
- 僕たちがやりたかったことって、新しい考え方や他分野への技術の転用とかではなくて、これまで何十年も続けてきたこと。いつまでも新鮮さを失わない普遍的な割烹食器をつくりたいってことなんです。そういう意味でハイメ・アジョンという人はすごく可能性があるなと思ったんですよ。彼は当時“アーティデザイナー”と名乗っていました。
- SOUQ
- アーティストとデザイナーのミックスですかね?
- 上出
- はい。造語だと思うんですけど。そのときハイメは大きな会社と仕事をしていたので、うちみたいな小さいところとなんてやってくれないんじゃないかと思ってたんですけど、実は彼は日本が好きで、有名になる前から日本に遊びにきてたらしくて、そのときの友達なんかが東京にいて、たまたま共通の友人だったりして…わりとトントン拍子にことが進んで、正式にオファーしたら「OK」と。僕らはお金ないよって言っても、「日本との仕事に興味がある」と、それで翌年の2009年にスタートしました。

スペインのデザインが好き
- SOUQ
- すごくいい縁でしたね。
- 上出
- 彼から最初にイメージ画が送られてきたとき、そこにCHOEMONと書いてあって、それだけですごく感激して(笑)。そこから父親をなんとか説得しました。そこからは友達みたいな感じでプロジェクトは始まりましたね。
- SOUQ
- ハイメさんは、他の国でもコラボレーションはしていたのですか?
- 上出
- さっきも言った「リアドロ」や「フリッツ・ハンセン」、「バカラ」とかと仕事をしていました。それらすべてのプロジェクトで彼はすごい量の絵を描く。カラフルな絵なんです。九谷焼のデザインをしてもらうのに、すごくいいなあと僕は思っていました。
- SOUQ
- 日本の磁器としては、かなり個性的な絵付けですもんね。

- 上出
- ハイメはスペイン人なんですけど、僕の父親がスペインの画家のミロがすごく好きで、家に版画が何枚かあったんです。そういうものに囲まれて育ったので、スペインの陽気な感じが好きで、大学1年の時に初めて海外旅行へ行った先もスペインでした。自分の感覚の中にあの国の色やトーンやタッチがあったんだと思うんですけど、ハイメ・アジョンの作品を初めて見たときも少し懐かしい感じもして。
- SOUQ
- コラボレーションをした作品は、染付が多いですね。
- 上出
- 言葉の壁もあったので、あれもこれもできますって言うと収拾がつかなくなるんじゃないかと恐れていたところもあったんですね。だからシンプルにさせてもらって、染付を基本に、色はアクセント程度でってルールを決めてオーダーをしたんですよ。ただ彼も同時に、僕らのうつわを見て、長右衛門はブルーだと直感的に思ってくれていたので、お互いの想いは一致しました。
写真/桑島薫
スペイン人デザイナーとのコラボレーションも成功した「上出長右衛門窯」。次回最終回は、惠悟さんが考えるこれからの作品について話を聞いていきます。
Creator/Brand

石川県の代表的な伝統工芸である九谷焼の窯元
上出長右衛門窯(かみでちょうえもんがま)
「上出長右衛門窯」は明治12年石川県に創業。東洋で始まった磁器の歴史を背景に、職人による手仕事にこだわり、一点一線丹誠込めて割烹食器を製造しています。