『YAGA』後編 守りたい、特別な何かを大切にする気持ち

ガラスの奥深さに魅せられて

ブランド立ち上げ当初は、既成のパーツを使って作成していましたが、次第にオリジナルパーツを作り、布やアクリルなど、さまざまな素材を組み合わせてアクセサリーを作っていましたが、今素材に使用しているのは基本的にガラス一択。そもそもなぜガラスなのでしょう。 「もともとはパーツの一部をガラス職人さんにお願いしたのがきっかけです。職人さんたちが実際に作っている過程を見て、その作業の美しさに単純に引き込まれていきました。また、製作依頼の際に自分が作りたいものを伝えるためにお見せするサンプルをうまく作れるようになりたくて、ガラス教室に通いだしたら、思いのほかハマってしまいました(笑)」

ご自身が考えるガラスの魅力とは。 「透明感と色合い、ですかね。光を通したときの感じとか。シンプルにカラーガラスの色合いが宝石のようでとても綺麗なんです。特に偏光ガラスは不思議で興味深く、見る場所の環境によって違った色に見えたり。光の屈折の関係で色の見え方が異なるからなんですけと、蛍光灯の下で見たときと自然光で見たときとで同じアイテムでも違った色に見える。だから、『あれ、さっき見たときと色が違う!』なんてことも。奥深くて面白い素材だなと。

そんなガラスの不思議な魅力にどっぷりハマった矢賀さん。さらに続けます。 「溶かしていろんな形にすることができるし、その色や形は時間が経っても変わらない。私が主に使っている“ボロシリケイトガラス”は、その軽さも魅力なんです。あと、ガラスは割れないように気を付ければ、一生使える。受け継がれていくものであればいいなと思っています」
一にも二にも必要な集中力
現在、年に2回ほど新作を発表している『YAGA』。アトリエではどのようにアイテムを作られているのでしょうか。 「最初にコンセプトをしっかり作る方ではないです(笑)。ただコンセプトは大事だと思うので、今後のコレクションはテーマを決めてやっていけたらなと思っています。でもルールを決めすぎると、自分の考えが制限されてしまう気もするので、なかなか難しいところですが…」 思いついたら、デザイン画をいろんなところに走り書きしていくそう。 「ノートにも描きますし、携帯にも描きます」 「絵、あまり得意じゃないんですよ(笑)」と言いながら見せてくれたノートには、想像していたよりも細かくイメージが描かれていました。

棒状のガラスを伸ばしたり、曲げる加工を施して作り上げていくYAGAのアクセサリー。実はガラスの棒を曲げる位置は、アイテムのサイズによってだいたい決まっていて、それが少しでもずれると思うような形に仕上がらないのだとか。 「たとえば縦長の輪っかを作りたいとき、ガラスの棒をどこで曲げるのか方眼紙できっちり大きさを図って描いてデザインしていかないと輪っかにならなかったり、いびつな形になってしまうんです」 そんなち密さが要求されるデザイン画を描きながら、頭の中でイメージがかたまってきたら、実際に手を動かして調整して作り上げていきます。

「一つ完成すると、次はこのアイテムに合わせるモノを、と連想じゃないですけど、アイテム同士を繋げていくイメージで作っています。色や形のバランスも考えて、同じコレクションの中ではどのアイテムを組み合わせてもOKな作りにしているんです」 実際に作ってみて、思ったより大変だった、ということは日常茶飯事。 「ガラスは色によって溶ける温度が違うので、クリアのガラスでうまくいっていたことがうまくいかないことも。色それぞれでも微妙に違うので、とにかく適切な温度を把握することが大事なんです」。
緊張に包まれる火入れの瞬間
繊細で集中力が必要とされる作業が多い中、特に危険を伴う大変な工程として、矢賀さんが挙げるのがバーナーでガラスに火を当てて成形していく作業。 「耐熱ガラスは高温でしか溶けないので、酸素ジェネレーターで空気を入れて火がついたバーナーの温度をあげていくのですが、 火を使うことに未だ大きな緊張感があり、気を抜けない瞬間です。ガラスって見た目だけだと温度が高い状態なのかわからないんです。作業に没頭して思わず触ってしまって大やけど、なんてこともあるので注意が必要です」

火の温度に気を付けながら、ガラスに当てる火の位置も、細かく調整していかなければならない。 「1mmずれただけでも、仕上がりが全然違ってきます。完璧にマスターするにはまだまだ時間がかかりそうです」 サンプルを作って実際につけて着け心地を試すなどの検証を繰り返し、一つのアイテムを完成するまで約1ヶ月。その後、こういうものを作りたい、と工場に必要なパーツを依頼し、それを元に矢賀さんが一つずつ仕上げまで行っていく。

「ガラスを曲げるのもそうなのですが、ガラスの棒を一定の細さに引き延ばす工程は手間がかかります。クリアのガラスは工業製品でも多く使われているので、自分が作りたいものの理想に近いモノを選べるのですが、色ガラスのロットは手作りのため、大きさが仕入れごとに異なります。細引きという作業になるのですが、もともとのガラス棒の細さと実際に作りたいアイテムの細さに差がなればなるほど、高い技術力が必要になってきます」
ガラスの新たな可能性を試したい
難しいけれど、ガラスを使ったアイテム作りは楽しい。そう話す矢賀さんに今後ブランドとして挑戦していきたいことについて聞きました。 「もっといろいろな技術が身についてきたら、アクセサリー以外のアイテムにも挑戦したいです。ガラスを使ったサンキャッチャーやモビールとか。日々の生活の中で使えるモノを作りたいですね」 目指すは、ガラスの可能性を最大限に生かしたモノ作り。そして、ゆくゆくは、姉のミノリさんが作る『FAIS DESIGNS』のシルバーアクセサリーとのコラボレーションも。 「シルバーとガラスは相性がいいので、いつかくっつけたアイテムを作れたらいいなと思っています」(ちなみに、『FAIS DESIGNS』は、最近スキンケアラインとして、美容石鹸の販売もスタート。製法や素材にこだわった石鹸で、洗うだけじゃなくて、お肌のケアもできる上に、見た目もかわいいと人気のアイテムになっているそう。)

姉妹そろって、やりたいことがどんどん膨らんでいるようです。 「2人ともいろんなものに興味があってやりたがりなんです(笑)。『方向は違うけど、それぞれの場所でパワーを発信していて、楽しそう』とよく言われます。」 「今すぐには難しいけれど…」と前置きした上で、「制作過程で出たガラスの破片や余ったガラスを何かリユースできればいいなと思っています。 個人で一度に大量のガラスを溶かすというのはあまり現実的ではないですが(笑)」
夢はまだまだ広がります。
大切にしたいモノへの愛着
最後にブランドを通して矢賀さんが伝えたいこととは。 「上質で特別に作られたモノを大切にできる姿勢は大事にしてほしいなと思います。使い捨てのものばかりではなく、長く使っていけるいいモノに目を向けるというか。その場その場で買ったモノってどうしても扱いもそれなりになってしまうんです。そうではなくてきちんと選べば愛着もわいて、大切に扱おうと自然と思える。そのときに選んでいただけるようなクオリティが高くて長く使える素材と飽きないデザインを目指していきたいです」

目先の見た目にとらわれず、本当に良いモノとは?というテーマに真摯に向き合いながら丁寧にモノ作りを行う矢賀さん。そんな彼女が生み出すこだわりのアイテムから今後も目が離せません。
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