山内マリコ 第1回「アイディアの泉を枯らさないために」 | SOUQ ZINE スークジン

山内マリコ 第1回「アイディアの泉を枯らさないために」

山内マリコ 第1回「アイディアの泉を枯らさないために」
各界で活躍するクリエイターの方々にお話を聞く「スークインタビュー」。今回ご登場いただくのは、デビュー作『ここは退屈迎えに来て』(2012年)や『アズミ・ハルコは行方不明』(2013年)など、映画の原作としても話題となった小説・エッセイを多数手がけ、3月に待望の新刊『あたしたちよくやってる』を刊行した作家の山内マリコさんです。

小説を書くという行為は不思議。

SOUQ
このインタビューでは、様々なジャンルで活躍されているクリエイターの方にお話を伺っているんですが、そもそも小説家というお仕事は山内さんにとってどのようなものですか?
山内
どういうもの、なんだろう……。小説家になりたいっていう強い気持ちはあったのですが、「なりたい」って言うのは恥ずかしくて、ずっと隠してました。25歳のときにやっと正直に向き合ったというか、自分の中で解禁して、新人賞に投稿するようになって。小説家になれたことや、それを職業としてお金を稼いでいけるのはすごくうれしいことですけど、今も心はアマチュアのまま。締め切りを守るとか、作品のクオリティとか、そういう意識はプロフェッショナルでありたいけど、あまりわりきって、小説家であることに慣れきってしまうと、なんか勘違いしそうで。小説家がどういう仕事かはぱっと答えられないけど、自分のことを偉いと勘違いしてしまう危険性のある肩書きですよね。私はいまだに「小説家」と自分で名乗るのには照れがあって、肩書きを訊かれたら「作家」とぼかしてます。でもその、小説家っていう職業に対する羞恥心みたいなものは大事だと思ってて、なくさないようにしてます。
山内マリコ
SOUQ
恥ずかしいと感じるのは、具体的にどういったことですか?
山内
フィクションを書くって、ようはでっちあげている行為なわけで。ノンフィクションやルポルタージュとは違う。なので、そもそも小説を書くという行為自体が恥ずかしいっていう意識はあります。これは小説に限らず、音楽や映画、アートでも、表現欲求のある人が最初に乗り越えなきゃいけない壁なのかも。なかでも小説は、たった一人で、言葉だけで世界を作る、ちょっと不思議な、特殊な行為ですよね。逃げ場がない表現手段なので、その壁がより高く感じるのかもしれません。
SOUQ
アマチュアの気持ちを持つこと以外に心がけていることはありますか?
山内
これもたぶん、ミュージシャンや映画監督にも言えることだと思うんですが、何かを創作したい人って、1stアルバムやデビュー作を世に出せた時点で、ゴールテープを切ってるんですよね。それまでの自分のすべてを注ぎ込んだ作品なわけだから、エネルギーの熱量が違う。私もけっこう出し切ってしまった感じがあって。2作目までは書きたいものが決まっていたからなんとかなったけど、その後に編集さんと打ち合わせしたとき、「どんなものが書きたいですか?」と聞かれて、「もう何もないよ!」って(笑)。そこで気が済んで書かなくなる人もいるけど、私はこの仕事を少なくとも30年は勤めあげたいと思っているので、プロとしての創作という、第2章に突入していった感じです。そこで心がけているのが、手塚治虫さんの言葉。「いつも書きたい素材をたくさん貯金していなければならないんだよ」という、藤子不二雄Aさんの『まんが道』にあったシーンを肝に銘じてます。次にこういうものが書きたい、この編集さんとだったらこれをやりたいということを、ストックするようにして、ネタというかアイデアというか、泉を枯らすことのないように気をつけてます。
山内マリコ

枯れた心が潤う、いい詩の効能。

SOUQ
その泉を枯らさないために、仕事ではなく普段からも、意識的にインプットされているんですか?
山内
作家になってまずびっくりしたのが、インプットの時間が全く取れなくなること。それまではニート状態で小説家を目指していたので、時間を持て余していました。インプット過多なくらいで逆に不健康だったんですけど、最初の1、2年で、それまでに蓄えたものが見事に全部無くなってしまって。依頼をいただく度にひたすら書きまくっていたら、いつの間にか乾いた雑巾みたいにカラカラになっていました。もはや室内の湿気を集めて雑巾を絞っているような状態で(笑)。これじゃダメだと、出した分はその倍、できれば10倍くらいインプットしなきゃいけないということを実感しました。
山内マリコ
SOUQ
では今は、意識してその時間を作っていらっしゃるんですね。
山内
そうですね。量は限界があるので、どんな栄養を与えたらきれいな花が咲くか、みたいなことを意識するようになりました。インプットも本と映画に偏っていたので、この何年かは舞台をたくさん観るようにしたり。有名どころの作品はひと通り観ておこうと。舞台はチケット代が高いし、指定席だから絶対行かなきゃいけない。それだけの拘束力がないと、なかなか動けなくて。
SOUQ
時間を使うものは、本、映画、舞台、音楽。何が一番多いですか?
山内
一番は映画ですね。2時間で1本観られるので、インプットにはちょうどいい。映画館にも行くし、家で旧作も観ます。充実度が高いのは本1冊読む方ですが、仕事に直結してるし、積読(つんどく)が増える一方なので、そういう意味では気が重い(笑)。でも、インプット云々ではなく、物語をがっつり読まないと、人として心がかさかさになってしまう。そんなときに一発で効くのは、いい詩を読むこと。時間は短いけど、深いところまで浸透する感じがします。
山内マリコ
SOUQ
どなたの詩を読まれるんですか?
山内
いろいろ読んで一番効き目が強かったのは、茨木のり子さんですね。特に心が乾いているときに読むと、てきめんに潤うし、しゃんとした気持ちになって、背筋が伸びる。ニュートラルな状態に戻してくれます。

取材・文/斉村朝子 写真/東泰秀

質の高いインプットにこだわる山内マリコさん。インプットからアウトプットまでにはどんなプロセスがあるのでしょう。次回第2回は、書き方のスタイルについて話をうかがっていきます。

<NEW BOOK INFORMATION>

『あたしたちよくやってる』山内マリコ(幻冬舎)
年齢、結婚、ファッション、女ともだちーー。結婚している人もしていない人もしたい人も、子どもがいる人もいない人も、女性がぶち当たる問題は様々。自己評価が低くなりがちな女性達の肩を優しく叩いてくれるような短編+エッセイ33編。

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