山内マリコ 第2回「本から深度を、映画から喜びを」

各界で活躍するクリエイターの方々にお話を聞く「スークインタビュー」。山内マリコさんの第二回目は、彼女の表現に影響を与えたカルチャーについて。まるで脚本のようにリアルな会話や情景が、どのように生まれているのか教えていただきました。
自分を形成した映画という原体験
- SOUQ
- 大学では映像を学ばれていたそうですが、映画や本、漫画、音楽など、これまで自分を形成してきたものの中で一番影響を受けたものはなんだと思われますか?
- 山内
- うーん、やっぱり映画かな。深度があるのは本だけど、先に快楽のような喜びや気持ちのいい感動を味わわせてくれたのが映画だったので、大学もそちらの方へ進みました。

- SOUQ
- 漫画や音楽に影響を受けたという人も多いですよね。
- 山内
- 音楽ももちろん聴くんですけど、青春と重ねて聴いているから、そのタームが終わったら「あの頃の気持ちを思い出すなぁ」みたいな懐メロ聴きになってしまって。Spotify聴いたり、グラミー賞くらいはチェックして、何が流行っているのかおさえるようにはしてるんですけど、所詮は歳食った人の聴き方ですよね(笑)。なんで音楽だけ、歳をとったら新しいものを追いかけなくなるんだろうって、前に音楽評論家の方とも話してました。10代、20代の頃は、アルバム買ってライブ行って、それこそ宗教みたいなのめり込み方をしていたのに。
- SOUQ
- 音楽は、映画や本より身体的なものではありますよね。
- 山内
- そう、きっと身体性が高いんですよね。感受性の中でも、一番若くて繊細な部分に訴えかけてくるから。昔はペンギン・カフェみたいな音楽ってスカした人が聴いてると思ってたけど(笑)、最近はすごくしっくりきます。ジャズとかクラシックも聴きに行くようになったし。年齢相応に、音楽に対する感受性が成熟してきたってことかなぁ。そうだと信じたいです。

映像を再生するように書く。
- SOUQ
- 山内さんの小説の中の会話を読んでいると、すごくリアルな情景が浮かんでくるんですが、書いているときも、その映像は浮かんでいるんですか?
- 山内
- はい。小さい頃から文学少女だったわけではなくて、レンタルビデオ屋で借りてきたビデオを、寝転がってポテチ食べながら見ているような子だったので(笑)、映像主導型ですね。浮かんでいる映像を書き起こすような感覚で小説に書いているところがあります。内面的な部分、意識や感情の揺れみたいなものは別ですが、情景については映画を頭の中で上映して、それがきちんと再生されるような文章にしようとしています。
- SOUQ
- 頭の中で上映されている物語は、結末まですべて見えているんですか?
- 山内
- 全然(笑)。以前は構成をガッチリ考えていたんですが、そうすると書いてても楽しくなくて、筆も乗らない、挙げ句に書けなくなってしまうということがあって。書いているうちに、自分が思ってもみなかったような展開をしたり、テーマが見えてきたりする瞬間が、一番テンションが上がります。
- SOUQ
- 読み終える頃に伏線が回収される気持ち良さもあったりするので、最後までストーリーが見えているんだと思っていました。

- 山内
- 長編の場合は、ある程度しっかりテーマや構成を考えますが、どうしてもズレが出てしまうので、あとで整合性が取れるように修正したり。ほぼ2回書いているような感じですね。短編の場合はもっとフリー・ジャズというか、どのくらい自由にやれるかが勝負というところがあります。いずれにしても、締め切りになんとか間に合わせるので精一杯。
- SOUQ
- じゃあ、あまり執筆のスピードは早い方ではない?
- 山内
- ないです! 締め切りに余裕があると、原稿に締まりがなくなってしまうという悪い癖もあって。ギリギリに追い詰められてないと、緊張感をもって書けないというのもあります。毎回、締め切りのおかげでなんとか書けてます。

- SOUQ
- 作家になられてから生活は変わりましたか?
- 山内
- 相変わらず夜更かしで、朝起きられないので、変わってないですね。イレギュラーな予定も多いし、計画どおりに書けないこともある。なかなか規則正しい生活とはいかないのが悩みです。年齢に合わせて健康的なサイクルにしたいけど、朝起きられないものは仕方ない。朝遅い人と思われてるの、なんか恥ずかしいんですけど、もうそういう生き方だって言い切きろうかな(笑)。
取材・文/斉村朝子 写真/東泰秀
頭の中の映像を言葉にしながら作品を生み出していく山内さんですが、編集者とのやりとりの中からも多くの気づきがあるとか。次回第3回は、編集者との二人三脚で生まれた新刊『あたしたちよくやってる』について話をうかがっていきます。
<NEW BOOK INFORMATION>
『あたしたちよくやってる』山内マリコ(幻冬舎)
年齢、結婚、ファッション、女ともだちーー。結婚している人もしていない人もしたい人も、子どもがいる人もいない人も、女性がぶち当たる問題は様々。自己評価が低くなりがちな女性達の肩を優しく叩いてくれるような短編+エッセイ33編。