山内マリコ 第3回「ただ“表現”がしたかった」 | SOUQ ZINE スークジン

山内マリコ 第3回「ただ“表現”がしたかった」

山内マリコ 第3回「ただ“表現”がしたかった」
各界で活躍するクリエイターの方々にお話を聞く「スークインタビュー」。山内マリコさんの第三回目は、先月3月14日に発売された新刊『あたしたちよくやってる』と、山内さんの原動力でもある表現欲求、満たされない思いの消化法について。

悩んでいたことが明確になった一冊。

SOUQ
新刊『あたしたちよくやってる』を読ませていただきました。
山内
ありがとうございます。どうでしたか……? ちょっと変わった作りなので、どう読まれるか心配で。
SOUQ
フィクションとエッセイが混在していて、 あまり読んだことのない不思議な体験ですごく楽しかったです。
山内
うれしい! 私も、客観的に見てこういう本があったらおもしろいし、買うかもなぁと思います(笑)。
山内マリコ
SOUQ
これまでに書かれていたものから新しく書いたもの、短編の物語もあればエッセイも入っているという不思議な作りの一冊だったんですが、これはどういう経緯でそうなったんでしょうか?
山内
まず、作家の仕事には二種類あって、一つは長編小説や短編集、連載のエッセイみたいに、はじめから一冊の本にすることを想定してあるもの。もう一つが、単発で来る原稿依頼にこたえる形で、雑誌や新聞に発表したもの。今回は後者のものがまとまった本ですが、短編小説とエッセイが同時に、ランダムに採録されてるのは、ちょっとめずらしいですよね。これは、担当の編集者さんが、単行本未採録の原稿を全部読んでくれて、そこから骨組みの形をつくってくれたものが、そのまま生かされてます。私も「こういう構成がいいんじゃない?」っていう流れを考えたのですが、編集さんのエディットしたものの方が断然良くて(笑)。自分でも忘れていたような作品を掘り起こしてくれたり、並びによって新たな意味を持たせたり、テーマを明確にしたり。一つ一つを書いているときには意識していなかったけれど、作家になってからの30代の自分が、そのまま反映されていると思いました。その時々で、何にもやもやして、何に悩んでいたのか、自分の心を占めているものが明確になってる。“編集”の醍醐味ですよね。
山内マリコ

表現欲求の先にたどり着いたもの。

SOUQ
内容やタイトルを含め、これまで山内さんが書いてきたものの根っこには「女性」や「地方と都会」というようなキーワードがあったと思うんですが、それは今後も変わらないですか?
山内
ベースの部分は変わらないです。ただ、年齢や状況によって変わっていきたいなと思います。自分にとって介護がリアルになったら、きちんとそのテーマに向き合っていきたいし。そのとき書きたいものを、きちんと形にしていきたい。
SOUQ
デビュー作の『ここは退屈迎えに来て』に出てくる人物たちが抱えているような、青くて鬱々とした気持ちは、今の山内さんにはもうないということですね。
山内
ないです(笑)。あれを書いている時点というと、20代の終わりから30代のはじめにかけてのころ。ちょうど10年近く前の、全力で若者だった瞬間の自分の感覚やリアリティを、そのまま小説に詰め込みました。ああいう作品にできたことで、登場人物たちが抱えていた葛藤や、直面していた閉塞的な状況を、私自身が乗り越えられたとろこがあります。あの本自体が、私にとって、ひとつの通過儀礼になったような。
山内マリコ
SOUQ
山内さん小説の読者は女性が多いとは思うんですが、読んだことのある男性も、痛いと感じる部分があったと言っていたのが印象的でした。みんなそれぞれに痛みを感じながら、乗り越えられることもあれば、その鬱々とした気持ちをずっと抱えたまま生きて行く人もいますよね。
山内
痛みも鬱々とした気持ちも、対処療法は人それぞれですが、私は書くことでなんとかしようとするタイプですね。悩みを解消するために書くわけではないけど、書いて表現することでしか、満たされない部分がすごくある。でもこの表現欲求って、人間はみんな多かれ少なかれ持ってるものなんじゃないかと。今SNSが流行っているのも、自分を表現したいという欲求があるからだと思うんです。傍観してるだけだと、どんどん批評眼が鋭くなっていくけど、それってすごく苦しいことでもあって。自分を表現するのは、自分に向き合うことでもあるので、それを避けたい人は多いのかも。私は逆に、突き詰めて考えたり、とことん向き合う性分なんですね、きっと。
山内マリコ
SOUQ
小説を書きたかったわけではなく、何かを表現したかったというところが大きいんですね。
山内
そうですね。昔からなにかを表現することに、トライし続けています。子供のころは絵、高校生のときは写真もやってたし、大学時代は映画作りを勉強して。でもどれもうまくいかなかったし、才能がなかった(笑)。最後の最後に小説がなんとかものになって、続けられて、ようやく自分に向いている表現方法に着地できました。

取材・文/斉村朝子 写真/東泰秀

リアリティのある作品を世に送り続ける山内さんが、次に向き合う作品のテーマとは?次回、山内マリコさんの最終回は、山内さんから今後のビジョンをお聞きしていきます。

<NEW BOOK INFORMATION>

『あたしたちよくやってる』山内マリコ(幻冬舎)
年齢、結婚、ファッション、女ともだちーー。結婚している人もしていない人もしたい人も、子どもがいる人もいない人も、女性がぶち当たる問題は様々。自己評価が低くなりがちな女性達の肩を優しく叩いてくれるような短編+エッセイ33編。

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