Y*RT2(ワイアールティーツー)第1回 クロスステッチとの出会い

さまざまなジャンルで活躍するクリエイターとその作品を紹介する「ピックアップクリエイター」。今回は、クロスステッチの刺繍を中心に、アクセサリーや洋服、バッグなどをつくる「Y*RT2」のかなやゆみさんにインタビューしました。
- SOUQ
- かなやさんが手がける刺繍はクロスステッチがメインということですが、クロスステッチとはどういう刺繍か、簡単にお教えください。
- かなや
- そうですね。縦横均等ブロック状に織られた布を利用して、そのマス目に沿ってクロスに刺すとひと目。それをずっと続けていって柄をつくります。
- SOUQ
- この方眼のマスが入った生地には名前があるんですか?
- かなや
- 国産のジャバクロスとか海外製のアイーダとかがあります。基本的にはジャバクロスがマス目が大きくて刺すところに穴が空いているので刺しやすいですね。マスの大きさは何段階かあります。

- SOUQ
- クロスステッチって、昔からある手法なんですか?
- かなや
- はい。諸説あるみたいですが、4世紀のトルコが発祥で、ヨーロッパを経て、世界へ発展したそうです。
- SOUQ
- 刺繍でもいろいろな種類があると思うのですが、かなやさんがクロスステッチを選ばれたのはどういう理由だったんですか?
- かなや
- もともと母が「戸塚刺しゅう」という日本の刺繍を習っていて、家でもよく趣味でやってたんです。だから刺繍糸や刺繍枠など材料や本は家に置いてあった。だから見よう見まねでやったりはしてて…あるとき家にクロスステッチの本があって、見たらドイツとかハンガリーとかの伝統的な刺繍が載っていて。

- SOUQ
- 出会いの瞬間ですね。
- かなや
- それを見たときに「わー、こんな刺繍見たことない!」ってなって。「戸塚刺しゅう」のなかでも特に「フリー刺しゅう」って、お花でも絵を描くようなリアルな感じでグラデーションをつけたり、テクニックがいるんですね。ステッチにしてもいろんな種類があって、それをいっぱい覚えなくてはいけなかったり。糸の色も、同じ赤でも何種類も使わなくてはいけなかったりするので。

自由につくれるクロスステッチ
- SOUQ
- グラデーションをつくるために?
- かなや
- そうです。だから「戸塚刺しゅう」はある程度絵心があったほうが上手にできるんじゃないかと思って。それで私はクロスステッチを選びました。
- SOUQ
- 「戸塚刺しゅう」というのは日本独自のものなんですか?
- かなや
- 手法自体は外国にもあるのですが、独特の色の組み合わせとかは日本らしさかもしれません。私個人のイメージですが、流儀というか、ルールが厳しくて、あまり自由にできない感じがしたんです。
- SOUQ
- 伝統があるからこそですね。
- かなや
- そうです。結構段階を踏んで学んでいく感じなんですね。クロスステッチというのはこういう感じなんですが…(本を持ってきて見せてくれるかなやさん)。

- SOUQ
- すごい古い本ですね。
- かなや
- はい。クロスステッチというのは、×がいっぱい集まった感じでつくっています。同じ花でもこんなに雰囲気が違うんですね。クロスステッチはどっちかというと塗り絵の感覚で、図案を見ながら埋めていく感じでつくります。

- SOUQ
- 実際に刺繍をつくるのに、スケッチ的なものはないんですか?
- かなや
- まったくないんですよ。こういうマス目の生地があって、ドット絵のような感じで、目を数えながら刺繍をしていくのですが、絵心はあまりいらないかもしれません(笑)。塗り絵感覚でできるので、私にはすごく向いていましたね。連続柄とか幾何学模様とか、東ヨーロッパの伝統的な柄を多く刺しました。

- SOUQ
- 確かに、こういう柄を見てると東欧のイメージがありますね。
- かなや
- そうですね。わりと色数も少なく単色のものが好きです。
始まりはビーズアクセサリー
- SOUQ
- 「Y*RT2」さんは長くやってらっしゃいますけど、刺繍は当初からされていたんですか?
- かなや
- いや、最初はアクセサリーから始まったんですよ。ビーズを編んだりとか。ブランド名も最初は「Y*RT2アクセサリー」だったんですよ。ビーズからだんだん布ものになっていって。生地と生地を組み合わせたパッチワークみたいな。やっていくうちにオリジナル性を出したくて、刺繍を始めてみたんです。


- SOUQ
- それはいつぐらいですか?
- かなや
- 10年ちょっと前ですね。昨年20周年でしたので、ちょうど折り返しぐらいのタイミングですね。
- SOUQ
- ブランドを始める前は何をされていたのですか?
- かなや
- 元々はアパレルの会社に勤めていたんですけど、会社を辞めた後に内職みたいな感じで家でアクセサリーをつくり始めました。
- SOUQ
- アパレルの会社ではどういう仕事をされていたんですか?
- かなや
- 一番最初はテキスタイルデザイナーだったんですよ。そのときに職場結婚をしまして。どちらかが辞めなければならなくて…。
- SOUQ
- えっ、ちょっと今では考えられないですね。
- かなや
- 次の会社が、パジャマとかハウスウエアをつくる会社で、そのデザインとパターンをやってました。それに付随してアクセサリーとか靴下とか帽子とか、雑貨っぽいアイテムを展示会で揃えたりしてたので、そこにアクセサリーを置かせてもらえればいいなあと。ちょうど子どもができたので会社を辞めて完全な専業主婦になって、家でアクセサリーをつくっては店に行って、展示会にかけてもらうようになりました。

- SOUQ
- ビーズアクセサリーから始められたのは、店や展示会に置いてもらえそうというのがあったのですか?
- かなや
- そうですね。当時ビーズアクセサリーがすごいブームで、いろんなセレクトショップにも置いてたりしたので。
- SOUQ
- どういう種類のアクセサリーだったのですか?
- かなや
- スワロフスキーというガラスのビーズをテグスで編みこんでいってモチーフをつくったりだとか。かなり細かいことをやってましたね。
- SOUQ
- それまでデザインなどはされてたと思うのですが、そういう手づくり的な、ちょっと根気がいる仕事というのは初めてだったのですか?
- かなや
- そうですね。なぜかそれをやろうと思って。どういうきっかけだったかははっきり覚えてないんですけど。材料も小さいのでそんなに場所を取らないし、とっかかりやすかったんだと思います。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
本との出会いでクロスステッチ刺繍に魅せられたかなやさん。次回第2回は、さらに刺繍の奥深さについて追求していきます。
Creator/Brand

手芸作家
Y*RT2(ワイアールティーツー)
クロスステッチ刺繍や、ヴィンテージテキスタイルを使って服飾雑貨を主に制作。
どことなく懐かしくて、おんなのコらしく、手づくりならではのあたたかみのあるものづくりをめざしています。