Y*RT2(ワイアールティーツー)第2回 刺し方もいろいろ、奥深き刺繍の世界

- SOUQ
- 刺繍を始められて10年ぐらいということなんですけど、その間に手法やテイストの変遷はありましたか?
- かなや
- いや、あまり変わってなくて、単色が好きで多色使いは苦手ですし。ただ柄はやさしい花などが多くなってきたと思います。昔は幾何学模様ばかりだったんですけど。

- SOUQ
- そうなんですね。花以外でモチーフにしているものはありますか?
- かなや
- あとは、クロスステッチの生地を使うんですけど、「×」に刺さない地刺し模様というのがあって。日本に昔からある手法ですが、そういうのをやったりとか。地刺しは、最近本がたくさん出たりして注目されていますよ。
- SOUQ
- 刺繍にも流行りがあるんですね。そしていろいろ種類があるとは知らなかったです。
- かなや
- 本当にいっぱいあって。ちょっとレースっぽく穴を開けるような、布地の織り糸を抜きながら刺すハーダンガー刺繍っていうのがあったり。本当に奥が深くって、いろいろありますよ。
こぎん刺しに似たスウェーデン刺繍
- SOUQ
- 他にはどんな刺繍があるのですか?
- かなや
- スウェーデン刺繍というのもあるんですよ。
- SOUQ
- 東欧から北欧ですね。それはどんなものですか?
- かなや
- 青森県津軽地方の伝統工芸・こぎん刺しに似てるんです。こぎん刺しは横に糸を刺していくんですけど、スウェーデン刺繍は布の織り目をすくいながら横にいったり斜めにいったり、ジグザグになってるんです。

- SOUQ
- こぎん刺しというと、柄が菱形とか斜めのラインもあったような記憶があるのですが…。
- かなや
- 模様としては菱形モチーフが多いんですけど、刺し方としては、横に一つずつずらしていくと柄が斜めになるんです。東北の寒いところのものなので、一枚だと寒いので、麻の布に幾重にも重ねて刺繍で補強していったり。そういう農民の知恵と工夫でできた伝統工芸ですね。ヨーロッパの刺繍なんかも、生活に密着したものがたくさんありますね。


- SOUQ
- いまの世の中、いろんな仕事がジェンダーレスになってきてますけど、刺繍の世界は女性の世界というイメージがあるのですが、どうでしょう?
- かなや
- 男性の作家さんもいらっしゃいますよ。昆虫や動物のクロスステッチをつくっている大図まことさんとかが活躍されています。
刺繍とミシンと、ひとり分業制
- SOUQ
- 刺繍にもいろいろある中、クロスステッチは、初めての方にはなじみやすいんですかね?
- かなや
- そうですね。小学生の手芸の時間に習うのもクロスステッチが多いみたいです。
- SOUQ
- たとえばテーブルクロス大の生地にクロスステッチを施すのに時間的にはどれぐらいかかるんですか?
- かなや
- 柄にもよるんですけど、全面に刺繍するとなると年単位の時間がかかると思いますねえ。
- SOUQ
- 年単位! それは大量生産できないですねえ。
- かなや
- そうですね。刺し子さんを雇ってらっしゃる方もいますけど。やっぱり一人でやっている作家さんだと、私みたいにイベントに出て販売もする方は少ないですね。

- SOUQ
- 一人で刺すとなると、限界はありますよね。
- かなや
- 刺繍ばかりするときと刺繍をつくりためてミシンをかけるときと、一人で分業作業をしています。できるときは一気にできるんですけど、最近は刺繍がなかなか貯まらなくて。
- SOUQ
- では刺繍をするときは一日中刺してるんですか?
- かなや
- そうですね。
- SOUQ
- ずっと刺繍をやってたら飽きて、たまにはミシンをしたいというふうにならないんですか?(笑)
- かなや
- どっちかというとミシンの作業を後回しにしたいというか。刺繍をするのは好きでずっとやってられるんですけど、そこから縫ってカバンなどにしていくときに腰が重いというか(笑)。でもやりだすとミシンも楽しくて、なんでもっと早くやっておかなかったんだろうって、いつも後悔するんですけど(笑)。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
刺繍の奥深さを教えてくれるかなやさんは、最近ではどのようなものをつくっているのでしょうか? 次回第3回は、「Y*RT2」の作品について掘り下げます。
Creator/Brand

手芸作家
Y*RT2(ワイアールティーツー)
クロスステッチ刺繍や、ヴィンテージテキスタイルを使って服飾雑貨を主に制作。
どことなく懐かしくて、おんなのコらしく、手づくりならではのあたたかみのあるものづくりをめざしています。